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タイトル : 十二国記パロディ

1 藤井怜

2002/06/28 14:11

小野不由美主上の十二国シリーズ。
好きが余ってパロディを書いてしまいました。

これは多分、「黄昏の岸 暁の天」のラストの六太の台詞を読んで書いたもの、だったと思います。お目汚しですがご笑覧くださいませ。
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2 藤井怜

2002/06/28 14:12

◇ 風の鳴く丘 ◇


 風が吹いている。
 錚錚と鳴るその秋風は、泣くことを諦めた民の嗚咽をまだどこからか連れてくる。高く晴れ渡った空の元で、いっそう黒く焼け果て荒れ果てて見える大地。新王登極の恵みはまだ目に見えない。疲れきったように淀む空気が粘っこく身を包んでいる。
 血腥いわけではなかった。ここに立っていることを麒麟としての本能が疎んじるわけではなかったのだが、六太はその風と空気に、押し潰されそうな息苦しさを感じた。耐え切れず振り返ろうとして、ぽん、と頭に大きな手が置かれる。六太が選んだ男の掌。それは広く温かく、六太を安心させる。しかしその一方で六太は、この男に不安を感じる自分も知っていた。

 数ヶ月前にもこの丘に登った。天勅を受ける直前のことだ。そのときも廃墟と化した国土を見下ろし、傍らに立つ男を振り返った。雁州国主上、小松尚隆。蓬莱で見つけ、六太が連れ帰ったその男は玉座が欲しいと言い切った。国をくれ、と六太に言った。

「泣かんでもいい」
「だ、だれが泣いてるんだよ?!」
「おや、慰めてやろうと思ったのだが違ったか」
 わざとらしく笑い声を立てておいてから、尚隆は飄然と国土を見下ろす。
「焦るな。何もないところから立て直すのだ。時間がかかる」
「・・・まるで立て直すことができるような口ぶりだな」
「当たり前だ。そのためにお前は俺を王にしたのだろう?」

 気ままに放浪していたつもりの蓬莱で、六太は尚隆を見つけた。そのとき、見間違いようもなく王気を湛えていた尚隆を、雁のためにならない男だと思った。雁を滅ぼす男だとさえ直感した。「王」など「支配者」など、民を苦しめるためだけの存在だと信じていた。
 しかし、結局六太は蓬莱の海で死にかけていた尚隆を救い、玉座に就けた。雁を滅ぼすかもしれない「王」を、六太は選んでしまった。できることなら王になどしたくはなかった。それでも、尚隆を死なせたくはなかったし、離れたくなかったのだ。最後まで迷い、そして、尚隆がまっすぐに言い切った「玉座が欲しい」ということばの前に、六太は頭を深く垂れた。六太が憎みさえしていた「王」なる者と、尚隆はどこか違っているような気がした。「気がした」だけだ。どう違うのかはわからない。おそらく、だから、いまだ尚隆に不安を感じてしまうのかもしれない。

「どうした?」
「・・・どうして、」
「なんだ?聞こえない」
「・・どうして、・・・王になった?」
「だから、お前が王にしたんだろうが」
「そうじゃない。どうしてあの時王になることを承知したんだ?」
「さてな」
 尚隆ははぐらかすように手を振ったが、六太は既にその答えを聞いている。
 六太が背負っていた、雁国の命運という恐ろしく重いものを尚隆にしか下ろせなかったように、尚隆が肩に背負ってきたものは国と民がなくては下ろせないものなのだ。それを知ったのは、小松家が滅亡した日のことだった。
「・・・俺があそこまで病んでいなければ、小松の民を救えたかもしれない」
 それが、尚隆が背負ってきたもの。
「言うな。あれは仕方がなかった。お前もそう言った」
「そうだな。確かにそんな風なことを言った」
 沈黙が落ちると風の音が強く聞こえる。
「俺が俺であるためには、国と民が必要だ」
 ふと低い声で沈黙を破る尚隆の目は黒く空を切る地平線へと注がれている。何が見えているのだろうか。その目に映っているのは、あるいは遠く喪った故国の水平線なのかもしれない。
「俺はあの国を守り、あの民を守るために生かされてきた。だが、それが果たされないまま国を喪い、民を失った。託されたものを放り出したまま死ぬのは後生が悪かった。それだけだ」
 それは先の六太の問いに対する答えだろうか。六太にはいつも薄明るく光って見える尚隆の王気が、ぐっとその強さを増した。
「預かったからにはこの国は立て直す。だが、王を引き受けたのは国のためでも民のためでもない。俺のためだ。俺が俺として立っていくためには、国と民が必要なのだ」
 難儀な性格だな、これでは俺は王にしかなれないではないか。尚隆はそう言って笑った。
 六太が「民のために」尚隆を選んだのではないように、尚隆もまた「民のために」王として立ったのではなかった。ただ、自分のために。自分が自分として在るために、尚隆は王としてしか存在できなかった。
 聞きようによっては得手勝手極まりないその言い分を、六太はきちんと理解したわけではない。しかし、それでいいように思えた。王としての天命を受けた男なのだから、それなりの器ではあるのだろう。尚隆に対する不安がきれいに拭えたわけではなかったが、少なくとも尚隆は、「民のため」という名分を振りかざして権力を欲しがるような「王」とは違う。
「もう王なんだからいいだろ?それにこの世界では、王じゃなくなったらお前は本当に死ぬんだから」
「お前も道連れにな」
「やなこった。死ぬならひとりで死んでくれ」
 思いっきり顔を歪めて舌を出し、声を立てて笑う。
 錚錚と鳴る風が、少しだけ、止んだような気がした。
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