POB 本好き連。

*本好き連へようこそ* URLが変更になりました。 ブックマークの登録の変更をお願いします。


四季の移ろうように人も変わっていきます。
しかし、ここに集う人が変わらない唯一のこと
それが本好きである事です。

本好き連はBBSがメインのちょっと変わった集まりです。
一つのスレッドを上げればそこはあなたのスペースになります。
必要なのは、ハンドル・ネームとお約束を守ってくれること。
一緒に遊んでみませんか?

*お約束*
個人に対する誹謗中傷などはしないでください。
HPの宣伝等は書いたままにするのではなく、一生懸命宣伝してください。
自分の発言には自分で責任を持ちましょう。

個人情報の取り扱いにご注意ください。

遊BBSへ近道
本のBBSへ近道
マナーを守って投稿しましょう。この掲示板ではタグは使用できません。
URL、メールアドレスは自動的にリンクされます。
新規投稿はすぐ下から行えます。
スレッド削除キー(最初に投稿した削除キーと同様)   

タイトル : なんとなく

1 fool

2004/02/03 21:52

えー、なんとなく、ふと思いついたショートストーリーやら、小話やら、愚痴とか、気が向いたときに書こうかなっと。

あ、もちろん、ツッコミ、横レス、可で(というか大歓迎で 笑)

その時、自分が何を思っていたのか、残したかったのか、言いたかったのか、想いたかったのか。

・・・まあ、なんとなくですが。
削除キー   

2 fool

2004/02/03 22:13

久しぶりに、会社の先輩たちと飯を食べに行く。奢りだっていうなら、ついて行かない理由は何も無い。それも焼肉だというのだから、まあ、嫌いな人付き合いもたまには悪くない。
 着いた場所は、今までも何度か来た事がある焼肉屋だった。
 肉を焼きながら、アルコールも入ってきた頃に、一人の先輩が言った。
「なんかお前って、変わり者だよな」
「んー、そうですかね?」
「絶対どっかずれてるって」
 納得いかないふりしながら、僕は首を傾げてみせる。わかりきっている事なら、とぼけるのは簡単だ。
「いや、先輩だって結構・・・」
「俺は変わり者じゃないな。変態やけどな」
「意味わかんないですよ」
 作り笑いで嘲笑う。持ち上げるように侮蔑する。だからどうした?そう言いたくなるほど繰り返す。 
 僕は何も変わっていない。

 変わりたいのはあなたのくせに。

 変われないのはあなたのくせに。

 僕と何も変わらないくせに。
 何も知らないくせに。
削除キー   

3 kao

2004/02/05 17:37

ふと思い立って、後輩を焼き肉に誘ってみた。いつもは断るのに、めずらしい事についてきた。奢りだったせいかもしれない。

アルコールが入って、ほどよく口が滑るようになってきた頃、後輩に話しかけてみようと思った。
「なんか、アンタってちょっと変わり者だよね」
「んー、そうですかね?」
そんなの、教えるつもりなんかないよと線を引かれる。
悔しくなってさらに言いつのる。
「絶対どっかずれてるって」
首をかしげながら後輩は答えた。
「いや、先輩だって結構…」
ああ、もうこれ以上踏み込んできてほしくないんだ?
そう。じゃあ、いいや。
「アタシは変わり者じゃないよ。…変態だけどねっ!」
笑ってやると、後輩は安心したように作り笑いを返してきた。
「意味わかんないですよ」

その後の会話も意味なんてなかった。
本気で話するつもりもない人と会話しても得るものなんて何もないでしょ。
そうやっていつまでも自分の殻に閉じこもってなさいよ。
変化が恐いんでしょう?

アタシにアンタを救ってやる義務はない。
削除キー   

4 fool

2004/02/05 18:12

ありがとうございます(ぺこり)
削除キー   

5 fool

2004/02/05 21:20

しかしまあ。。。、自分で読んでみてもアホなこと書いてしまったな、と・・・。反省。
削除キー   

6 まりかちゃ

2004/02/06 00:20

踏み込んで欲しくないと言いながらも、人と接しないわけにはいかないわけで自分の殻に閉じこもってるのは、別に悪いことでもない。

たぶん、殻のない奴なんていないんだから。

ただ、その殻を上手に誤魔化す術を身につけているか、まだ身につけることが出来ずに、悩んでいるかの違いに過ぎない。

本音を語るにはやはり語っても笑われないであろうと思われる人物を選ぶ。

人は誰だって傷つきたくはないのだ。

そして、傷ついたとしてもその傷つき方を人には見られたくなくて虚勢を張ってみせる。

人は誰にも救えないのだよ。救えると思っていることがすでに傲慢だ。
削除キー   

7 kao

2004/02/06 00:55

やあね、お礼なんか言わないで(笑
調子に乗って先輩サイド書いただけなのにー
続きをかいてよ、まってるからさ。
また○○サイドで返事をするよ(笑

>まりかちゃん
救えるとも思ってないし、殻を破るつもりもないよ(笑
削除キー   

8 かなめ

2004/02/06 14:57

近頃、嫌いなCMがある。
ある車のラジオのCM。

−−−−俺はどこにでもいるような奴だけど、泣いていても泣いてないと言い張る。
俺みたいなユニークな奴は居ない。−−−−

なんか、そんなおかしなCM。

男なら誰だってそうだろう。
女だってそうだろう。
泣いたことも、落ち込んでいることも話したとしても、その心の奥の苦しさまでは誰も吐かない。大丈夫だと言い張る。
それはプライドだったり、虚勢だったりするけれど、みんな精一杯一人で立とうとしているから。
大体、本当に面白い奴は、自分のことをユニークだなんて言わない。
自分は普通、そう言い張る奴ほど面白い。

「お前みたいにつまらない奴は居ないよ」
ラジオに向かっていつも呟いてしまう。
削除キー   

9 fool

2004/02/06 19:08

つ、続きですか・・・・(汗)

・・・ちょっとは明るいの考えよ。
削除キー   

10 kao

2004/02/06 23:18

ウン、明るいのよろしく…(笑

削除キー   

11 fool

2004/02/13 20:34

未知なき道は つまらない
未知なき道じゃ 物足りない
未知なき道を 飛び越えて
道なき未知を どこまでも
削除キー   

12 fool

2004/02/27 20:54

『風の噂』1


   
 大抵の町には、その町独特の噂≠フようなものがある。それは噂というより都市伝説のようなものであって、町外れのトンネルにはそこで死んだ人の幽霊が出るとか、ある山の頂上付近ではUFOがよく目撃されるとか、そんなホラー系のものを始め、またはどこそこで告白するとその恋愛は成功するだとか、様々なようで、なんか似たようなものが多い。
 僕が暮らしている町にも噂≠ヘあった。ただ、それは妙な噂で、最初にそれを聞いた人間はまず間違いなく眉をひそめ、「こいつは何を言っているんだ」という感情をあらわにする。そんな噂だ。
その噂のどんな点が妙なのかと言えば、まず第一に、それを知っているのは僕が通っている高校の人間に限られている。なぜなら、その噂の体験者というのはこの学校にしかいないからだ。妙な連帯感のようなものでも働いたのだろうか、最近では噂を校外へ漏らせば、漏らした当人にその噂が起きる≠ニいう尾ひれまで付き始める始末だ。
そして第二に、最初に聞いた瞬間、意味がわからない。さっきも言ったが、相手が何を言いたいのかよくわからないのだ。僕も最初に聞いた時はそうだった。詳細を聞いた後も半信半疑だったが、まあ、噂というものは誰だって半信半疑なものだ。信じているか、いないかではなく、信じてみたいような、みたくないような、そんなものだ。
信じていた訳ではない。
でも、信じていなかった訳でもなかった。
ただ、実際に目の前に現れた噂は、僕の想像を遥かに超えていて、やはり噂らしく現実味がなかった。
それでも、信じなくてはいけない。
自分の目の前で起こったことを否定し続けるほど、僕は頑固でもなければ偏屈でもない。
わずか三日間の出来事。
そのわずかな時間で、僕は噂の目撃者になったのだが、そのことは誰にも言っていない。なんだか、もったいなかったからだ。独占欲みたいなものだろうか。
本当に、誰にも話したくない。傍から見れば大したことのない、それでも大事に抱えているガキの宝物みたいなものかもしれない。
六月の、毎日じりじりと暑くなる日々が続くある日。とても晴れた放課後の出来事。
この町の噂。
僕が見た噂。
それは・・・・・・、

・・・・・・この町には、風が吹く。

削除キー   

13 fool

2004/02/29 22:44

『風の噂』2


僕、水木大輔はただぼんやりと空を眺めていた。
六月十三日。午後五時半。梅雨入りが遅れている空は、雲一つないとまではいかないものの、まあまあの晴天。学校の屋上から眺めるまだ明るい空は、まあそれなりにはきれいだ。
そんなものを楽しむ余裕は、僕にはなかった。
馬鹿でかいため息を吐き出す。
帰宅部の僕がなぜこんな時間に学校に残っているのか。なぜ場所が屋上なのか。それを簡単に説明するなら、ここで待ち合わせをしているからだ。
相手が誰かと言われれば、一応、今付き合っている同級生、一年一組の梅原祥子さんを待っている訳だ。すでに待ち合わせの時間は三十分ほど過ぎているが、怒る気にもならない。元はといえば原因は僕なのだから。
僕は四組なので教室では顔を合わさない。一組まで会いに行けばそれで済む話なのだが、待ち合わせの事情が事情だけに人前では顔を合わせにくく、わざわざ放課後にこんな場所で僕は立ち尽くしていた。携帯で連絡を取ってもいいのだが、冷静に話す自信はまったくなかった。
中学からの知り合いで、決死の覚悟で告白したのが中学最後の体育祭の前日。付き合い始めて九ヶ月になろうかというところで、僕たちは今までで最大の大喧嘩をやらかした。原因は僕だ。
理由は簡単、高校に入ってから僕がバイトを始めたからだ。当然二人での時間が減るのは目に見えている。
始めたバイトが忙しくてなかなか会う機会に恵まれない二人。そしてやっと作れた二人の時間を、バイト疲れから眠そうな面で台無しにしたのも、当然僕だ。
仕方ないと言えば仕方ない。祥子が怒るのは当然のことだし、もしかしたら僕が眠そうだったのを仕方ないと言ってくれる、似たような境遇の人だっているかもしれない。
仕方ないと思えば、世の中のほとんどは仕方ないことばかりだ。
正直、どうでも良かった。
悪いことをしたと思いながらも、祥子と怒鳴りあいながら、ああ、そろそろ別れるのかなとか考えたりして、珍しく怒鳴っている自分を冷静に眺めていたり、喧嘩の最中に、そろそろ暑くなったし、夏が近いなあとか考えていたり。
なにもかもが面倒で。
全てが投げやりで。
なんとかしないといけないと思い、祥子を呼び出したものの、結局自分が何を言いたいのかさえわかっていなかった。
頭を下げて謝るのか。別れ話でも始めるのか。
謝るとすれば、こちらには弁解の余地なしだ。人と会ってる時にあそこまで堂々と眠そうな顔が出来る奴はそういないだろう。こうなれば平謝りしかない。最後は土下座だ。
別れ話を切り出すなら?今ならすんなりいきそうで、それはそれで辛いものがある。こじれても嫌だが。
どうとでもなれ。なるようにしかならないさ。
「風でも吹かないかな・・・・・・」
 そう呟いたのは、ただ晴れてばかりで風の吹かない空に愚痴ってみただけだ。六月ともなれば、風が止めばじっとりとした暑さが身を包む。
 二ヶ月前にはすでに沈んでいた太陽も今はまだ姿を残しているが、それでも徐々に沈んでいく太陽は精神的に堪えるものがある。
 願いが届いたのか、そよそよとそよ風が過ぎていった。
「ふう・・・・・・」
 屋上の柵に寄り掛かるように全身の力を抜く。そろそろ帰ろうかな、とか思っていた時だった。
「・・・・・・あれ?」
屋上の片隅に、一人の少女が一人で立っていた。祥子じゃない。それくらいは遠目でも見ればわかる。祥子は髪を伸ばしているが、その少女は髪を短く切り揃えていた。顔付きはここからではよくわからない。着ているのは学校の制服だから、間違いなくこの学校の生徒だとは思うが、見慣れない顔だと思う。もちろん、自分と同期だと限らないし、知らない子だからと言って珍しくもないのだが、こんな時間に一人で何をしているのだろうかと、僕は好奇心を刺激された。
 じろじろと眺めすぎたのだろうか。少女は僕の視線に気付いたようにこっちを見ると、驚いたように辺りを見渡した。自分以外に誰かいないか確かめているようだったが、確認し終わるとテケテケとこっちに走りよってくる。
「ねえ、君、私が見えるの?」
 やばい奴に捕まった。第一印象はそれだった。どう考慮しても、まともな人間の台詞とは思えない。
 適当に話を合わせておくべきか、さっさと逃げ出すべきか、考えられる選択肢はその二つだが、どちらを選んでも問題は残る。
 逃げるにしても、今はここで待ち合わせの最中なのだ。この場所を動いてすれ違いにでもなったりしたら・・・・・・。

 喧嘩中の彼氏に呼び出されて屋上まで行くと、そこには誰もいませんでした。

 あの怒りっぽい祥子の理性が完全に吹き飛ぶのは目に見えている。二度と口を聞くことすら叶わないだろう。
 だからといって、ここで適当にこの子と話を続けていて、そこに祥子が現れたら?

 喧嘩中の彼氏に呼び出されて屋上まで行くと、そこでは彼氏と見知らぬ女の子が二人でいました。

 あの怒りっぽい祥子の理性が完全に消し飛ぶのは目に見えている。二度と顔を合わせることすら叶わないだろう。
 この子に事情を説明してさっさと離れてもらうという手もあるが、その手段を用いるのは、今の自分の状況を説明するというのは、なんというか・・・・・・情けなかった。
「あ、あのさ・・・・・・」
 覚悟を決めて、最後の手段に出ようとしたが、その声は少女の歓声でかき消された。
「わあー!すごーい!ほんとに見えるの?言葉通じてるよね?わあー!すごーい!」
 やばい、やばすぎる。どう考えてもまともじゃない。一人で興奮しながら、きゃーのきゃーのと騒ぎ立てる少女を見ていると、今すぐに逃げ出したくなる。
「ねえ、ちょっと時間いい?ほんとに少しでもいいから。ね?」
「い、いや・・・・・・、でも・・・・・・」
「大丈夫よ。彼女は今日は来ないから」
「・・・・・・え?」
 祥子が来ない?
 少女の一言に、唖然とした表情を向けると、少女は自分の言葉に気付いたようで、しまったという表情をあらわにしたが、すぐにまあいいかといった表情になった。
「この町の出来事で、私が知らないことなんてないの。君がここにいる理由もね。隠し事なんかしようとしても無駄なんだから」
「・・・・・・なんで?君は誰?」
 僕の二つの疑問に、彼女は一言で答えた。
 さも当然と言わんがばかりに。
「私が、この町に吹く風≠セから」


 この町には風が吹く。
 それが僕たちの中で広まっている噂だ。
 最初に説明する時には、みんなこの言い出しから始めるのだ。聞いた相手が、不可解気に悩む顔が見たいがために。
 もう少し細かく説明するなら、それは一種の神隠しのようなものだ。
 風の吹かない晴れた日に、突然吹く風がある。それは突風かもしれないし、そよ風のようなものかもしれない。
 その風が吹くと、何かが去っていく。
 なんだか意味深なようで、いまいちよくわからない噂だ。
 神隠しのようだと言ったが、人が消えたりした訳じゃない。大抵はちょっとした小物が見つからないとかなくなったとかその程度のものだが、誰も知らない間にその噂は広まっていて、今では何かがなくなれば大抵は風のせいだとなる。逆に、風がなくなったものを連れてくるという噂も聞いたことがある。
 とにかく、この高校に通う生徒が風≠ニいう単語でまず最初に閃くのは間違いなくその噂である。
 しかし、その風≠ェ自分たちと同じ制服に身を包み、女の子の姿をして現れるといった噂を聞いたことは一度もなかった。
 そう、この時僕は、この高校に通う生徒なら誰でも知っている噂の、誰も知らなかった真実を知ろうとしていたのだが、そのことを僕が理解するのはもう少し後のことだった。


「・・・・・・風?」
「風!」
 なんだか、とてもハイテンションだ。
「風っていうと、あの、噂の、あれだよね?」
「そっ、あの風よ。聞いたことくらいあるでしょ?」
「まあ、聞いたことくらいあるけどさ・・・・・・」
 いきなりそんなこと言われて信じる奴なんかいるはずがない。断言したっていい。絶対にいない。
 僕だって信じちゃいない。
 でも、この少女はなぜ僕がここで彼女と待ち合わせていると知っていたのだろう。
 はったりか?いや待て、もしかしたらこの子は祥子の友達で、僕を試すためにここに来ているとは考えられないだろうか?きっとこの後、この子は僕をどこかへ誘ったりするに違いない。僕がのこのこと誘いに乗ったりすれば、きっとそこには鬼のような表情で佇む祥子がいるのだ。
でも、なぜ風≠ネのか。そう名乗る必要があるのか。まったく説明がつかない。
「やっぱり信じてない」
 心持ち恨めしそうに、それでいて半ばわかり切っていたとでもいう風に少女はそう言った。そりゃそうだ。信じろってほうが無理だ。
「そっ、それじゃあれか?よく物がなくなるもの、噂通り君のせいなのかな?」
「あれだってね、悪気がある訳じゃないのよ。でもね、気が付くとつい・・・・・・。無意識なの、ほんとに、悪気はないのよ」
 冗談まじりでなんとか口にした言葉にも、少女は真面目な顔で答えた。どこか寂しそうに。
「結局、私はまだ何も捨てきれていないの」
 最後の言葉の意味はよくわからないが、どうやらこの少女は本気で自分のことを風≠セと言い張るつもりらしい。
「ちなみに、君の言ってること、俺が信じてると思う?」
「ううん、全然信じてない」
 まったくその通りである。
「でもさ、これならどお?」
 少女は、僕の目の前でひらりと軽やかにステップした。
 目をつぶった訳じゃない。瞬きだってしていないはずだ。・・・・・・風も吹いていなかった、と思う。
 そんな僕の目の前で、少女は一瞬で姿を消した。
 状況を理解出来ずに立ち竦む僕。声は背後から聞こえた。
「これで信じてもらえるかな?」
 僕の背後には柵がある。声は、その外から聞こえていた。
 宙に浮かぶ少女。
「・・・・・・・・・・・・!」
 気が付いた時には、叫んでいた。
「静かにしてよ。これで信じてもらえたかな?私が見える人間なんて初めてなんだから、何がなんでも信じてもらうわよ」
 訳のわからないことばかりを言い続ける少女だったが、その次の言葉は僕を揺さぶるのには充分なものだった。
「私はこの町に吹く風=Bこの町のことならなんでもわかるわ。君、水木大輔がここにいる理由も、梅原祥子がここに来ない理由も、その想いも・・・・・・ね」
 驚きのあまり腰を抜かしていた僕は、自信満々に語る少女を見上げながら、大きく息を飲み込む。
「知りたい、聞きたいって思ったでしょ?私のことなんか信じてもいないくせに、それでも聞きたいって」
 図星だ。
 風?そんなことをいきなり言われて信じるものか。そうだ、誰だって信じるはずがない。
でも僕は、自分の目の前で起こったことを否定し続けるほど、頑固でもなければ偏屈でもない。
僕は見たんだ。この少女が消えるのを。そして、人に見つからないように、わざわざこんな時間に僕がここにいる理由も、この少女は知っている。
だからこの時、僕はすでに信じていたんだと思う。はっきりとではなくても、心のどこかで。
風≠フ存在を。
「なんで・・・・・・、どうして来ないんだよ。こうして待ってるのにさ。なあ、風なんだろ?なんでもわかるんだろ?じゃあ、俺にわかるように説明してくれよ!なんであいつ来ないんだよ!」
 もはや、風がどうとかそんな問題じゃなかった。自分でも不思議なくらいの苛立ちが僕を襲っている。謝るのか、別れるのか、そんなことを僕は考えていたが、来ないというのはどういうことだ。納得出来ない。
「聞きたいの?彼女のいない所で、彼女を探るような真似をしたいのかな?君は。信じてもいない存在から」
 きつい一言だった。
 でも、どれだけ情けなくても、惨めだとしても・・・・・・。
「聞きたい」
 そのためなら、信じたっていい。心の底から。
 僕の答えに、少女はとても困ったような表情をした。困っていながら、どこか楽しそうな、意地悪に、どうしようかな〜とでも言いたそうな顔だ。
「どうしようかな〜」
 言いやがった。
「私の言うこと、聞いてくれたら教えてあげてもいいかな〜」
 空を見上げながらそう言った少女は、横目で僕を見ながらはっきりと笑っていた。僕の返答なんかわかりきっているのだ。
 そして僕は、彼女の思い通りの言葉を口にする。
「聞くよ。聞くから・・・・・・」
 教えてくれ。そこまで言う間もなく、少女は僕に願いを言った。
「明日も、明後日も、同じ時間にここに来て。そうしたら教えてあげる」
 とだけ言うと、少女は姿を消した。辺りを見渡すが、もうどこにもいない。僕はしばらくの間、その場で不可思議な出会いを思い出しながら呆然としていた。

 ・・・・・・結局この日、祥子は屋上に姿を見せなかった。

削除キー   

14 fool

2004/03/05 21:13

『風の噂』3


六限目の終了を告げるチャイムが鳴り、いつも通り放課後がやって来た。
 ノートを机に広げたまま、僕はなんとなく天井を見上げたままぼけっとしていた。
 今すぐ祥子のいる教室へ行けば、まだ会えるかもしれない。部活が始まるまでのわずかな時間ではあるが、話すことが出来るかもしれない。
 でも、行く気にはなれなかった。
 待ち合わせを無視したのは祥子なんだ。この件に関しては僕は悪くないはずだ。うん、きっと悪くない。だから僕は行かない。
 そんなことを考えている自分が、とても無様で、みっともなく。
 教室には人影がまばらになっていた。
「何してんだよ、そんな所で」
 声をかけられ、僕は振り向いた。
「・・・・・・なんだ、田嶋か」
「なんだとはなんだ。辛気臭い顔しやがって」
 どかっと、僕の前の席に腰を下ろすと、確信的に言い放った。
「梅原と喧嘩でもしたんだろ?いい気味だ」
縁なし眼鏡をかけたその顔は、とても人当たりのよさそうな面構えだが、口はあまりよくない。
「まあ、深く聞く気はないけどな。原因なんかお前が悪いに決まってるんだ。さっさと謝ったほうが得策だぞ」
 訂正。口はかなり悪い。
 口には出さないが僕は知っている。こいつも、祥子のことが好きなのだ。中学生の頃からずっと。
 僕たちは、中学も同じだ。口の悪さは昔から変わらないが、頼られると世話好きの一面を出す田嶋は意外と人望が厚かった。当時から、あまり自分の考えや想いを人に伝えようとはしないヤツだったが、祥子に対する時、こいつは本当に少しだけ優しく、素直なることに僕は気付いた。注意して見てみなければ、本当に気付かない程度の違いではあったけれど。
 なぜそんなものに気付いたかだって?
 僕も祥子が好きだったからに決まっている。
「言われなくてもわかってるよ」
 そう言う僕に、田嶋はふんっと鼻で笑っただけで、その話題はそこで打ち切られた。
 そんな経歴を持ちながら、僕たちとこうして接しているこの男を、僕は少しだけすごいヤツだと思う時がある。もちろん、本人に言う気は毛頭ないが。
「今から帰るのか?どうせならちょっと付き合え。暇で仕方ない」
 今日は駄目だ。どうしても、学校に残っていなくてはならなかった。
「・・・・・・パス」
 と、気の抜けた返事を返す。
 朝から、放課後のことだけを考えていた。
 時計を見る。帰宅部の僕にとって、待ち合わせまでの時間はまだまだ長い。
 廊下ではまだ多くの生徒が騒いでいる。ああ、そう言えば僕は学校に来ていたんだな、となんとなく再確認した。どうでもいいことだけど、時々、忘れそうになる。
 ぼーっとしていた僕に、田嶋は苛立たしげに舌打ちして席から立ち上がった。
「おいっ」
 意外に強い口調に、僕は驚き顔を向けた。
「お前がそんな風だから、梅原がくだらないことで悩まないといけないんだよ」
 そう言い残し、それっきり振り返らずに教室から出て行った。
 僕は、屋上を見上げる。
 ・・・・・・僕が祥子を悩ましている。
 人の事情も知らないで、勝手なこと言いやがって。言いたいことだけ言って勝ち逃げのつもりか?
 でも、もし田嶋が教室から出て行かずに、僕に何らかの返答を求めたとしたら、僕は彼になんと言い返すことが出来ただろうか。
 言葉は、何一つ浮かんでこなかった。

「遅い」
 第一声はそれだった。
 少女は今日もそこにいた。屋上の片隅に。
 少女の言葉に慌てて時計を見るが、時間には遅れていない。まだ三分ほど余裕があるほどだ。
「時間通りなんだけど・・・・・・」
「女の子との待ち合わせなのよ?どう少なく見積もっても、十分は早めに来るのがセオリーってもんでしょ?」
 訳がわからない。昨日も訳がわからなかったが、今日は今日でこれだ。わからないことばかりだ。
 女の子との待ち合わせ?
風≠フくせに?
「昨日は、二十分以上早く来てたくせに・・・・・・」
 少女は、今にも泣き出しそうな声でそう呟いた。その声に相応しく、今にも泣き出しそうな顔だ。
 見た目が同い年の少女であるため、相手が風≠ナあろうがなんだろうが、こんな顔をされると、なんとも自分が悪者になったような気がする。
 確かに、祥子と待ち合わせていた昨日は、予定よりもずっと早く来ていたのも事実だ。
「ごめん」
 思いつく言葉といったらそれぐらいだったけど、僕なりに悪いとは思った。
 一瞬きょとんとした後、少女は今までの泣き顔が嘘のような笑みを浮かべる。
「うん、許してあげる」
 言葉に出来なかった言葉も、この少女にはわかったのだろう。言葉にはけっして出来ないような、細かな感情まで。
 便利なものだ。こんな力があれば、僕と祥子ももっとうまく付き合えたんじゃないかと、昔から口下手な僕は、少女の力を羨ましく思う。
「そんなにいいもんじゃないわよ。聞こえないものまで聞こえるっていうのは」
 見透かした一言。
「わかってるつもりなんだけどさ。そう思うのが人間なんだよ」
「なんだよねえ」
 そう、誰だってわかっているはずなんだ。思っているはずなんだ。本音なんか聞きたくないって。
 でも、みんなが言っている。嘘はいけないって。
 でもやっぱり、本当はいないんだ。本音を聞いて、同じことを言える人間なんて。
 そんなことを考えていると、急に、ほんの少しだけ鼻の奥が熱くなった。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
 感情を誤魔化すように、わざと強い声を出す。
「・・・・・・え?」
 少女は明らかに動揺した。
「だから、俺は何をすればいいんだよ。呼び出したのはそっちだろ」
「えっと・・・・・・ねえ・・・・・・考えてなかった」
「・・・・・帰ってもいい?ひとまずここには来た訳だし」
「わあ!ちょっと、ちょっと待ってよ!ねっ?私が見える人なんて初めてなんだから」
 帰ろうとする僕を、少女は両手を広げてブロックしようとする。カバディみたいだ。祥子ならきっとこんなことは意地でもしないだろう。プライドの高い、というより負けず嫌いの祥子は、僕に対してもあまり『頼む』ということをしない。
だからだろうか、そんな必死になっている少女の姿がなんだか微笑ましく、僕はもう少しだけ付き合うことにした。どうせやることなんか何もないんだ。
「ちょっと待ってね。すぐに何か考えるから」
 首をかしげたまま、五分くらいが経過した。
悩んだ末に、少女が口を開く。
「それじゃあさ、梅原さんとの馴れ初めとか聞かせてよ」
「やっぱり帰っていい?」
「えー?いいじゃないのよー、ちょっとくらい。ほら、なんなら愚痴でもなんでも聞いてあげるから。君、そういうの苦手でしょ?」
「ほっといてくれ。それに、そんなもの聞かなくても知ってるんだろ?風≠ネんだから」
「そうだけどさあ。でも、話してみると楽になるもんじゃない?それに私、人の悩みとか聞いてあげるのに昔から憧れてたのよ。ね、お願い」
 どうせ私は風≠ネんだから、もう会うこともないし。と少女は付け加えた。
 確かに、僕は人に愚痴をこぼしたりしたことがほとんどない。なんとなく、人に弱みを見せてしまうようで嫌なのだ。たとえ相手が祥子であっても。
 でも、目の前にいる存在は人ではない。
「・・・・・・誰にも言うなよ」
 そう前置きし、僕は少しずつ語り始めた。
 中学最後の体育祭の前日のこと。それより昔のこと。そんな昔のことを喋るのはやはり恥ずかしくて、僕は少女と目を合わさないように気を付けながら、多少ぶっきらぼうな口調で話し続けた。
 そんな僕の話を『事実』としてはすでに知っているはずの少女は、相も変わらずなハイテンションぶりで騒ぎながら僕の話を聞いていた。実は何も知らないんじゃないかと疑いたくなる。
「それで?それでどうなったの?」
 とまあ、ずっとそんな感じだ。
 ただ、話していると以外にも、自分自身でも忘れかけていたことが多いことに驚いた。少女に聞かせるために自分の過去をまとめ直すという作業は、なかなかどうして面白い。
「そう言えば、そんなこともあったんだな。なんか自分でも忘れてたよ」
 僕の思い出し笑いに、少女はなんだか眩しいものを見るような視線を送っていた。
「ああ、ごめん。なんか一人で喋りすぎたかな?」
「ううん、そんなことない。私が頼んだんだから。続けて」
 話は、僕たちが高校に入学した後へと続く。
 バイトを始めた。いつも金のない自分が情けなくって、たまには祥子の前で格好付けたかったんだ。その程度の理由だった。
「・・・・・・そんなこと、あいつに言う訳にはいかないけどさ」
 自分でも気付いていた。さっきから自分の話し方が変わっていることに。
 淡々と過去を語っていた時と違う。
 そう、僕の言葉は愚痴そのものになっている。わかっているけど、止まらない。
 バイトは思っていたよりもずっと忙しくて、僕自身が『働く』ということをどれだけ甘く見ていたか痛感させられた。
 祥子と会う時間が減り始め、当初は隠されていた祥子の不満は、徐々に僕にもわかるくらいに祥子の表面に出てくる。
 そして僕たちは喧嘩した。こうして話してみるとよくわかる、些細な、本当に些細なことの積み重ね。人を幸せにするのも、不幸にするのも、そんな些細なことの積み重ねなんだろう。
 一通り話し終えた僕は、自分がほとんど捲し立てるように喋っていたことに気付き、大きく息を整えた。
 高校に入ってからのたった二ヶ月を話すのに、中学時代を語った時間の倍近い時間を使った気がする。
「まあ、こんなもんかな。なんか途中から情けない話になっちゃったけど」
「そんなことないよ。そんなことない。情けなくなんかないよ」
 少女の口調は、今までの明るい、つかみ所のないようなものではなくて、なんだかとても切羽詰った、僕が聞いたことのない真剣なものだった。
「今、君は思っていたよね?私に話しながら、『俺がもう少ししっかりしていれば、こんなことにならなかっただろうな』って」
 僕はしぶしぶと頷いた。この少女に嘘を吐くことなんて出来ないのだ。
「思うだけなら誰だって出来るさ。そうだろ?」
 そんなものだ。自分が悪いと思うことは誰にだって出来る。そう口にすることも出来る。でも、本当に自分が悪いと認めることが出来る人間なんてどこにもいない。口ではなんと言いながらも、すぐに自分以外の『何か』に責任を押し付け、言い訳を繰り返す。
 そして僕だって、そんな人間の一人に過ぎないのだ。
「でも君は認めたわ。自分が悪かったって」
「認めてなんかないさ」
 そんなことで意地を張っても仕方ないのだが、僕は強く拒否していた。
「私相手にそんなこと言ったって意味ないことくらい、わかってるくせに」
「認めてなんかいないよ。俺はそんなに出来た人間じゃない」
「・・・・・・もう、そんなことで意地張って」
 少女は拗ねたように頬を膨らませながら、徐々に傾き始める太陽を眺めていた。
 祥子なら絶対にしない子供っぽいしぐさに、僕は不覚にも見惚れてしまった。
「なーに見惚れてんのよ。ま、気持ちはわかるけど、梅原さん怒るわよー」
「・・・・・・ご、ごめん」
 なんだが、今日は謝ってばかりだ。
「こういうことはすぐに認めるくせに」
 その後は、沈黙。
 僕も、少女も黙ったままで、僕はなんとも気まずい。が、懲りずに盗み見た少女の横顔は、なんだかとても楽しそうだ。
 少し強い風が吹く。
 僕は目を疑った。
 風に吹かれた少女は、髪一筋も、制服の裾もはためくことなく、ただその場で楽しそうに微笑んでいた。
 少女を見ていなければ見過ごしていたはずの一瞬。
 その一瞬の、小さな、異様なほどの違和感が、僕に彼女の正体を思い出させる。

 こうして話していると、つい忘れそうになる。
「あー、涼しいわねえ」
「す、涼しいとか感じるんだ。暑いとか、寒いとかも?」
「ううん、全然。まあこうして人間のふりしてるんだから、気分の問題よ」
 さらりと言い切った。
「・・・・・・やっぱり、怖い?」
 あくまでも表情を崩さず、少女は僕を見つめた。崩れていないはずの表情が悲しそうに見えたのは、僕の錯覚だろうか。
「・・・・・・」
 間に沈黙が入り込むのを防ぐことが出来なかった。
 僕は彼女を悲しませているのだろうか?
 思うな。考えるな。怖くなんかない。考えちゃいけない。いや、この時点でばれてないか?でも、そんなことはない。怖くなんかない!
「怖く、なんか、ないよ」
 実に八秒近くの沈黙の後、なんとかそう口にした。
 過度の緊張のせいか、声がうまく出せず、妙なアクセントが付いてしまった。
 ばれた。そう思った。
 相手が風でなくても、絶対にばれている。そう自信を持って言えるくらい下手な嘘だった。
 完全に失敗した。
 でも、少しでも怯えれば、この目の前の少女を傷つけてしまう気がして、僕に出来ることは、ばればれでもなんでも、精一杯強がることだけだった。
「・・・・・・いい人だね」
 その苦笑めいた言葉に、やはりばれていたと気付く。
「でも、でも、本当に怖くないからさ。本当だから、信じてくれよ!絶対に怖がっていないから!」
 自分でも驚くほどきつい口調だった。僕の言葉が彼女を傷つけたという事実に、泣き出しそうなほどの焦りと苛立ちを覚える。
「本当・・・・・・だから・・・・・・」
 柵を強く握り締めながら、僕はそれ以上言葉を紡ぐことが出来なかった。
 僕の中で、僕ではない僕が囁く。
(祥子相手にあれだけ喧嘩しておいて、なんでこんな所で見知らぬ少女のことを気遣っているんだ。その十分の一でも、祥子のことを気遣ってやれば良かったんじゃないのか?)
 その通りだ。まさしくその通りだ。でも、こうして人間のふりをしている少女を傷つけてしまったとしたら、
(どうだって言うんだ?さんざん恋人を傷つけておいて)
 それでもこの少女を傷つけることは、なんだかとても辛い。
 喧嘩していた最中の祥子の顔を思い出し、その時の自分を思い出し、僕は思う。

 ・・・・・・僕は、いつも自分勝手で、無力で。

 自分で認めたはずのその言葉は想像以上に僕の胸を抉り、そのまま癒えることはなかった。これからもずっと目を背けられないものを、僕は認めてしまったのだ。
 ずっと昔から知っていたことだけど。
 認めるというのはそういうことだ。
 自分自身が、ひどく汚らわしく思える。
「・・・・・・った理由、よく実感出来るわ」
「えっ?」
 少女は僕の方を見ていた。自分の考えに埋没していて、彼女が何と言ったのかよく聞こえなかった。
「ごめん、聞いてなかった」
「・・・・・・もう」
 ふてくされた少女の頬が、わずかに赤く染まる。
「だから・・・・・・」
 少女の唇が、僕の耳元に寄せられた。
「・・・・・・!」
 人間でないとわかっていても、やはりどきどきした。
「こうしているとね、私にも実感出来たの」
「な・・・・・・何が?」
 心臓がばくばくと跳ねている。目の前には、きれいに切り揃えられた髪と、その隙間から覗く耳。頬が今にも触れ合いそうだ。とてもきれいな、白い肌が心臓の鼓動をより速める。
「・・・・・・梅原さんが、あなたを好きになった理由」
 少女は、昨日と同じく、唐突に消えた。

削除キー   

15 fool

2004/03/10 21:27

風の噂4
 
 
 帰り道のことだ。
 祥子が、僕を好きになった理由?
 僕の頭の中はそのことで一杯だった。
 ・・・・・・わからん。
 祥子は、僕が言うのもなんだが、よく出来た女の子だった。
 少し怒りっぽいのが玉にキズだが、とてもはっきりとしている性格は姉御肌といった感じだ。なんだかんだと人に好かれて、頼られるタイプ。
 顔だってまあ、あれだ、僕が言うのもなんだが・・・・・・悪くない。
 そんな祥子が僕と付き合っているのがどれくらい不思議かと言うと、中学校の学校新聞で、学校の七不思議の七番目の噂になったくらいなのだ。ちなみにその年に新聞部の部長を務め、七不思議の制作を行った男の名を田嶋俊哉という。地獄へ落ちろ。
 二人が付き合っていることが学校中に知れ渡った時の周囲の騒ぎようなんて、僕はしばらく学校を休もうかと真剣に考えていたくらいだった。
(祥子が、僕を好きになった理由か)
 今まで、考えたこともなかった。祥子が僕の告白を受け入れてくれたことがとにかく嬉しくて、それ以上深く考えるのが怖かったからだと思う。
 なにもかも中途半端な気がして、自己嫌悪をたっぷり込めたため息を吐き出した時だった。
 何かを踏ん付けた。
 財布だった。
 結構、厚みがある。
 僕の現金な脳ミソは、今まで抱えていた悩みを瞬殺し、目の前のそれに意識を集中し始める。普段は頑張って押さえている物欲が、もやもやと脳ミソを覆い出した。
 その欲望に身を任せ手を伸ばす僕に、ささやかな、ほんのささやかの良心が僕の手を止める。
 後三センチで手が届く。が、僕の脳裏に、この財布を落とした人が悩む姿が見えた。
 しかし、こんな所で気付いてもいなかった財布を踏ん付けておきながら、見逃すというのはどうかと・・・・・・。
 これを踏ん付けたのはきっと神様の、いや、風≠フオクリモノに違いない。そう言えばなんとなくさっきから風が吹いている気がする。
 意を決して手を伸ばし、その手触りを思う存分指先で感じる。
 そこで、僕は突き刺さるような視線を感じた。
 ・・・・・・場所が悪かった。
 十メートルほど先にあるのは小さな交番だった。その入り口では、一人の警官が立っており、視線こそ逸らしているものの僕の動作に意識を向けている。間違いない。相手はただの警官ではなかった。この交番に勤務し数年になる、由緒正しき町のお巡りさんだ。
 僕は財布を手に取ると、奥歯を噛み締めながら交番へと歩いた。
「あの・・・・・・」
「ん?なんだい?」
 一部始終を見ていたくせに、初老のお巡りさんはそう言った。
「・・・・・・これ、そこに落ちてました」
「おお!わざわざすまないね」
 わざとらしいくらい大仰な仕草で、僕の手から財布を受け取る。
 未練たらたらの視線を財布に注ぎそうになる。そんな仕草も観察されているような気がして、僕は慌てて視線を交番に張られている張り紙に移した。
(・・・・・・あれ?)
 適当に眺めていた張り紙が、なぜか僕の中で引っ掛かった。
 何か、見慣れたものが視界を過ぎったのだ。もう一度、よく見直してみる。
 原因はすぐに見つかった。
 古い、痛んだ張り紙だった。

 ―目撃情報求む

(なっ・・・・・・!)
 お巡りさんが何か言っていたが、もはや僕には耳を傾ける余裕もなかった。
 一枚の写真と、小さな文字で形成されたなんの変哲もない張り紙だ。

―行方不明

 でも、その張り紙の内容を、僕はどうしても理解することが出来なかった。

 ―学校で姿を確認されたのを最後に行方をくらまし・・・・・・

 全身が震えていた。気持ち悪い汗が噴き出す。
 張り紙に記されている日付は、今から六年前の、

 ―六月十三日

 そしてそれは、まぎれもなく・・・・・・。

 ―早川 響

 屋上で出会った風≠フ少女だった。

削除キー   

16 fool

2004/03/18 00:11

風の噂5


 最後の日、六月十五日の午後五時半がやって来た。
 いつもの場所で少女を見つけた僕は、手に持った二本のコーラの缶を掲げた。
「うわっ、今日はどうしたの?気が利くじゃない」
 陽が強いから、と言う少女の提案で、僕たちは給水塔の影に座る。コーラのプルトップを開けてやると、ありがと、と短く、それでいてとても満足気な言葉が返ってきた。
 今までとは違い、少女は進んで喋ろうとはしない。
 少女の足元に置かれているコーラの、炭酸の抜ける音が妙に大きく聞こえる。
「気付いちゃったんだね。私のこと」
 いきなりの一言に、用意していた言葉が片っ端から消し飛んだ。
「・・・・・・変わった名前だな」
 なんとか口にしたのは、なんの慰めにもならないそんな言葉。
「うん」
「・・・・・・人間だったんだ」
「昔はね。昔の名前では呼ばないでね。私はもうただの風≠セから」
 そう言ったきり少女は黙った。その顔は、張り紙に写っていた六年前の、人の前から姿を消した時とまったく同じものだ。
 六年前と言えば、僕がまだ小学校に通う洟垂れ坊主だった頃だ。自分の暮らしている町でそんな事件があったなんて、今まで知らなかった。騒ぎにはなっていたのだろうけど、そんな記憶は僕には残っていなかった。
僕は何も言えない。彼女の想いを気遣うどころか、事態を整理することすらままならないのだ。
今さらながら考えてみれば、学校の屋上で出会い、この少女がこの学校の制服を着ている時点でおかしいと思うべきだったのかもしれない。最初に抱いていたこの学校の生徒だろうという認識は、その後に見た風≠ニいう事実にかき消され、当然浮かぶべき疑問を僕の中から消し去っていた。
炭酸が抜ける音が徐々に弱く始める。
まだどちらも口を付けていないコーラ缶の赤が、ひどく目に付いた。
「今日は、私が喋ってもいい?」
 僕は、無言で首を縦に振る。
 彼女が人間だったとすれば、風≠ノなった理由だとか、経緯だとかがあるはずだ。
 それが聞きたい。
 可哀想だとか、納得出来ないとか、それだけじゃなかった。
 人がみんな幸せになれるなんて思っていない。
 納得出来ないことなんて、今でも腐るほどある。
 それでも、人が人でなくなるなんて、僕にはやりきれなかった。
 少女は淡々と話す。
「君と同じ一年生だった頃、私はいつも何かにいらいらしていたの。学校に、家族に、とにかく、周囲のもの全部に」
 その告白は、明るくてさっぱりとした気性の少女にはなんとも似合わないものだった。その悩みは、僕が抱いているものにあまりに近くて、この少女の悩みとしてはあまりにも相応しくない気がする。
「言ったじゃない。私だって元は人間だったって。今の私とは違うの。君にも同じような悩みはあるでしょう?もちろん、梅原さんにだってね」
 最後の一言が妙に意識して向けられた気がしたが、少女の顔からは何も読み取れない。今までの二日間では見せたこともない、隙のない無表情だった。悲しくなるくらい、無表情だった。
 祥子の悩み。僕はそれを理解していただろうか。
 答えは簡単だ。
小指の先ほどもわかっていない。
理解している気でいながら、考えていることは常に自分本位で。
今までとは比べほどにならないくらい情けなくなる。自分自身が恨めしくて、悔しくて、腹立たしくて、僕は下唇を痛いほど噛み締めていた。
少女の話は続いている。
「いつも思っていたわ。なんで何もかもうまく行かないんだろうって。なんでいつもいらいらしてるんだろうって。それが自分のせいだって認めることが出来ずに、なんでも人のせいにしようとして。でも本当の原因は自分なんだから、結局答えは見つからないで、それでまたいらいらして」
 馬鹿みたいよね。少女はため息を吐く。
 無表情に隠した、とても疲れたため息。
「そんなこと、この年頃の子なら誰だってあることだって、わかってたつもりだったんだけど・・・・・・」
「・・・・・・で、何もかも嫌になって家出したのか?」
「ううん。私、家出なんかしてない」
 僕は額に皴を寄せた。少女はもはや僕に口を挟ませようともせずに、僕の思いを読み取り喋り続ける。
「私ね、ここから飛び降りたの」
 出来ることなら、聞かなかったことにしたい言葉だった。
 聞こえなかったふりをしてみた。
「ごめん、よく聞こえなかった」
「飛び降りたの。ここから。自殺」
 自慢じゃないが、僕は幽霊だとか、怪談の類が大嫌いである。この歳になっても、その手の特番は避けているくらいだ。
「も、もしかして・・・・・・」
「幽霊じゃないわよ。私は風≠セって言ってるでしょ」
 幽霊と勘違いされた少女は不機嫌そうだったが、あの無表情は消えた。そのことがなんだか嬉しい。
「よく考えてみなさいよ。飛び降り自殺なんてことがあったら、こんなに簡単に屋上に上がれる訳ないじゃない。今頃とっくに閉鎖されてるわよ」
 それもそうだ。自分の迂闊さが恥ずかしく、僕は照れ隠しに頭をぼりぼりと掻く。
「じゃあ、結局は飛び降りなかったとか?」
「飛び降りたわよ」
 今にもパニックに陥りそうだった。話がまったく見えてこない。
「何もかも嫌で嫌で、生きていくのが面倒で、死んでやるって思ってここに来たわ。でもね、柵から下を見た時は、本当に怖かった。足が震えて、歯ががくがくって音を立てて噛み合わなくって・・・・・・、でも、戻れなかった。戻るのは、もっと怖かったから」
 少女の目から、何かが一粒こぼれた。僕は気付かないふりをする。
「柵を越えた私は、突風でも吹けばいいのにって思った。そうして、私を押してくれればいいのにって、最後まで自分以外のものにすがってた」
 少女はぼろぼろと、大粒の涙を流し始める。気付かないふりを出来るレベルではなかった。
「泣くなよ。・・・・・・なんか、俺が苛めてるみたいだし」
「泣いてなんかいないよ。私はただの風≠ネんだから」
 その言葉がひどく辛い。彼女がなんと言おうと、彼女の目から流れるものは涙∴ネ外の何物でもなく・・・・・・。
「風なんか吹いてくれなかったから、私は飛び降りたの。目をつぶって、ほんの一瞬に全てを込めて」
 涙の混じった鼻声で、少女は喋り続ける。
 僕は何も言わなかった。
 六年前から何も変わらない少女。六年前から泣き続けることしか出来ない少女。
 もうこれ以上傷つくことはなく、そして、けっして癒えることのない傷を背負った、傷だらけの永遠。
いくら考えても、そんな少女にかける言葉なんて見付からなかった。
「ずっと目をつぶっていたけど、いつまでも痛みは襲ってこなかった。地面に叩きつけられた自分のイメージだけが膨らみ始めて、気を失っていたんだと思う。・・・・・・目を開いた時には、私は風≠ノなってた」
 少女が言うには、自分が落ちるべき場所には、潰れた死体どころか血の跡すらなかったらしい。彼女は死ぬことに失敗し、人でなくなることには成功した。
 気付いた時には、彼女は全てを眺めていた。
風≠ニして。
 パニックに陥る暇もなかったという。目を開いた瞬間に少女は悟ってしまったらしい。もうけっして戻ることは出来ないということを。
「その時、私は知ったの。今、自分の目の前にあるもの全てが運命≠セって」
 これで私の話はお終い、と少女は笑った。その顔には、涙の跡は見えなかった。
「これで、私がお願いした二日間は終わり。ありがとね、私みたいなのに付き合ってくれて」
「いいよ。どうせ暇だったし」
 自分のぶっきらぼうな物言いがひどく恨めしい。
「じゃあ、暇ついでにもう少し付き合ってもらってもいい?」
 僕が答えるよりも早く、隣に座っていた少女は僕の肩に頭を任せ、寄りかかってきた
「・・・・・・しばらく、このままでいさせて」
 少女の行為にも驚いたが、それだけではなかった。僕は間違いなく少女と密着しているというのに、僕の皮膚は少女の存在を僕に伝えていなかった。重さも何も感じない。僕の視覚は目の前の少女を認識しているのに、僕の五感が狂ってしまったような違和感を覚える。
 壊れ物を抱えているかのように、僕は身動き一つ出来なかった。少女は、ひどく儚げで、とても虚ろで。

 ・・・・・・しゅわしゅわ・・・・・・。

 ずいぶんと弱くなった炭酸の抜ける音が、やけに大きく耳に響いていた。
 どれくらい間そうしていたかはわからないけど、少女が動くまでの間、僕は誰にも見えない少女を見続けていた。
「・・・・・・あと十五分もすれば、ここに梅原さんが来るわ」
 寄りかかったままの少女言葉は、僕を現実に引き戻した。
「な、なんであいつが?」
「三日間も待ち続けたかいがあったじゃない」
「あ・・・・・・」
 忘れていた。僕がここに来た最初の理由は、祥子との待ち合わせだったのだ。
 少女は、こうなることを知っていて僕をここへ呼んだのだ。
「梅原さんに気を付けてあげて。今、彼女はとても危険だから」
 少女は、本当に小さく、小さく、僕の隣で呟く。
「危険?」
「そう。人はね、誰でも風の資質≠持ってるの。何も投げ出したいような、どこか誰も知らない遠くへ行きたいような感情。風≠ヨの憧憬」
 確かに、僕にも覚えがあった。
 どこまでも、どこまでも吹いていく風。人の持つ苛立ちや悲しみなんか関係なく、ただ吹き続けるその存在はとても美しく魅力的で。
 でも、今、僕は同じ想いを抱くことは出来なかった。目の前の少女を知ってしまったから。
「彼女は、とても私に似ているの」
 と言った後、少女は自分の言葉に首を傾げた。
「似ているなんて言ったら梅原さん怒るかな?私みたいな出来の悪かった女子高生と、しっかり者の彼女じゃ全然違うよね」
 その言葉に、僕は苛立つ。
「自分のこと、そんな風に言うなよ」
「・・・・・・うん。ごめん」
 ごめん。何度も僕が彼女に対して言ったその言葉を、逆に言われてしまった。きついことを言ってしまったかと思ったが、少女は嬉しそうに頬を僕の肩に強く押し付けた。触れている感覚は相変わらずなかったが。
 人の温かみが、恋しいのだろうか。
 少女はずっと一人だったのだ。六年前の六月十三日から、ずっと、ずっと、ずっと。
「でもね、いくら似ていなくても、やっぱり彼女は私に近い所にいるの」
「祥子が、風≠ノなるっていうのか?」
 祥子が消えてしまう。口にした瞬間、頭の中が真っ白になるくらいの恐怖に襲われた。
「可能性としては・・・・・・ね」
 僕はその時、はっきりと怒りを覚えていた。その怒りが何へ向けられたものなのかはわからなかったけど、そんなことは気にもならなかった。
「そんなこと、許すもんか・・・・・・!」
 助ける方法なんか考えつきもしなかったけど、自分の近くにいる存在が風≠ノなるなんて、絶対に許せない。
 少女は、そんな僕の感情を受け入れるようにじっとしている。
 こんな場面を祥子に見せる訳にはいかなかったけど、もうすぐここに祥子が来ると知りながら、少女は動かなかった。僕も動かなかった。
 風の吹かない晴れた日。
 六月十五日。
 給水塔の影。
 時の流れすら感じさせない、そんな時間だった。
 でも、そんな時間にも終わりが来る。
 今までの時間が嘘のように少女はあっさりと僕から離れ、まだ座ったままの僕の目の前に立ち上がった。
「最後に一つだけ、聞いて欲しいことがあるの」
 喉がからからになって声が出なかった。ぬるくなったコーラを一口飲み、沈黙で話を促す。
「君たちの中で広まっている風の噂≠フこと。あの噂は本当なの。風≠ノなりきれない私の中に残る未練が時々何かを引き付けてしまうの。悪気がある訳じゃないのよ」
 そしてその未練は、どうしてもこの学校に強く残ってしまっているらしい。
 少女は饒舌だった。いつの間にか噂になってしまい、誰になんと言われようと何も言うことは出来ず、何かを引き付けてしまっても、一言の謝罪すら出来ない。少女がすでに風≠ナある以上、人の感覚がそのまま適用出来ないのは少女からも聞いているが、それでも思う。僕なら間違いなく発狂しているに違いない。
「でもね、私がけっして連れて行けないものもあるわ。それが想い=Bだから私は人を連れて行くことは出来ないの」
 少女が何を言いたいのか、僕にもわかった。
「梅原さんに言うべき言葉は見つかったかしら?」
 何一つ見つかっていなかった。
 謝るのか、別れるのか。
「俺が祥子に謝ってやれば、祥子は風≠ノならなくてもいいのか?」
「そういう問題じゃないわ。それに、私が聞いているのは君の素直な気持ちよ」
 少女の言う通りだ。僕はこの期に及んでまで、決定を自分以外の何かにゆだねようとしていたのだ。
 つまりそれは、責任逃れ以外の何物でもない。
 直にここに祥子が来る。僕は決めなくてはいけない。僕の意思で、僕の責任で。
 正しくなくても、間違っていても、迷っていても、決めなくてはいけないのだ。絶対に正しい答えなんて見つかるはずはないけど、僕たちには決断しなければいけない時がある。だから僕は決めなくてはいけない。
 それが・・・・・・。
 少女は微笑んだ。それは、歳の離れた姉が弟に、または母親が子に向けるような優しい微笑みで。
 同時に、少女の体が透き通り始めた。今までのように唐突にではなくゆっくりと、微笑んだまま。
「もう行っちゃうのか?」
「うん、二人の邪魔する訳にはいかないしね」
 そう言ってウインクして見せた少女は、やはりどこか悲しそうだった。
 いつもそうだった。この三日間、少女はいつも悲しそうで。
 そんな彼女に、僕は何か言いたかった。何か、彼女の中に残るような言葉を。
「もう、会えないのか?」
「君は人。私は風=Bこの三日間だって、本当なら有り得ないような時間だったんだよ」
「もう、会えないのか?」
「・・・・・・うん、会えないよ」
 この少女に、僕は何をしてあげられるだろうか。この傷だらけの少女に、僕は何が出来るだろうか。
「絶対に、響のこと、忘れないから」
 少女の顔が歪む。
「・・・・・・その名前で呼ばないでよぉ」
 少女の中で、何かが崩れた。
「本当に忘れないでね」
「ああ」
「絶対に、忘れないよね!」
「絶対に、忘れないから!」
 少女の口が再び開くと同時に、少女は消えた。
 僕は屋上に取り残され、空を見上げる。

 ・・・・・・ありがとう。

 ・・・・・・サヨナラ。

 風に乗り、どこからともなく届いたその言葉は、いろんなことを僕に教えてくれた少女の言葉としてはひどく陳腐で、だからこそ、そのまま風に吹かれ、空に溶けて消えた後も、僕の中で、けっして消えることなく、何度でも、いつまでも・・・・・・。

削除キー   

17 fool

2004/03/18 00:13

風の噂6


 響の言葉通り、祥子は屋上にやって来た。
 目が合った途端、祥子は僕から視線をそらし、僕もまた祥子から視線をそらせてしまった。
 それでも祥子は、いつも通りの力強い足取りで僕の隣までやって来る。
 しばしの間、僕たちは沈んで行く太陽を眺めていた。
 屋上まで上がってきた祥子は、よほど急いで来たのかひどく息が乱れていて、転んだのか膝からは血が流れている。結構痛そうだ。
 僕たちは終始無言だった。
「なあ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」
「膝、大丈夫か?」
「大丈夫」
 全身全霊で声をかけてみたが、返ってくる答えはひどく冷たい。息が詰まりそうだ。
 このままではいけない。
 僕は覚悟を決めた。
 所詮、僕はただの人間で、
 相手の想いを汲み取ってやる器用さなんて持ち合わせてなくて、
 自分勝手な生き物で、
 自分勝手だからこそ、僕は祥子を失いたくはなかった。風≠ェ吹こうがどうしようが、僕の知ったことか。
 そう、風≠ェ吹こうがどうしようが、けっして手放したくないのなら、僕はこの手で繋ぎ止めておかなくてはいけないのだ。
「なあ・・・・・・」
「・・・・・・ん?」
 放っておけば、いつまでも繰り返されそうな言葉の繰り返し。
 それを変えるのが、今の僕に出来ることだ。
 結局、響は僕に祥子の想いを教えてはくれなかったけど、聞かなくて良かったと思う。もし聞いていたら、僕はこうして祥子と並ぶことは出来なかっただろう。対等な立場すら崩してしまうところだったのだ。
 祥子が何を考えているのかはわからないけど、それは、お互いの想いを伝えるという喜びを与えてくれる。
 決めた。祥子に言うべき最初の言葉を。それはとても安っぽい言葉だけど、僕は、僕なりの精一杯の言葉を。
「なあ・・・・・・」
「なによ?」
「・・・・・・」
 そして僕は、その言葉を、風に乗せた。

 沈んで行く太陽を眺めながら、僕たちは生きていた。
 この、風が吹く町で。


                        おしまい

削除キー   

18 fool

2004/03/18 00:15

おお、オレにしては早く書けた!
削除キー   

19 fool

2004/03/18 00:16

なぜか最近、19のファーストアルバムがお気に入りに。懐かし〜♪
削除キー   

20 fool

2004/03/18 00:20

>寄りかかったままの少女言葉は、僕を現実に引き戻した

あ、「少女の言葉は」だ・・・・。
削除キー   

21 みて太

2004/03/18 00:41

foolさん・・・素敵でした、ありがとう。


削除キー   

22 fool

2004/03/18 00:50

みて太さん。こちらこそ最後まで読んでいただいてありがとうございます。
でもさっきから誤字やら脱字やらがちらほらと・・・(汗 確認雑すぎ)
削除キー   

23 風雲

2004/03/18 21:11

なかなかいいかんじですよ♪
「……」には読んだ人それぞれの言いたい、言って欲しい言葉がはいるんでしょうね。
でも今度からはこんなところ(失礼(^_^;)でこっそりやらなくてもよいのでは?
こっちのほうが気楽〜というならそれも可、かもしれませんが。
短い話をお書きになるなら「foolマガジン」とかなんとかスレ名つけてみたらどないでしょう。
削除キー   

24 みて太

2004/03/18 22:51

風雲さん。仰ることはよく判りますが、しばらくはこんな感じ(思いついたストーリーを気軽に書き込んで、ちょっと「連」に出入する人も楽しませてくれる)でいいんじゃないでしょうか。
foolさんが素敵な書き手だということは間違いありませんが、きっと改まって「foolマガジン」なんてやったら照れくさくって書けなくなってしまうような気がします・・・男はシャイなのです。
勝手に決めちゃってますが、案外「foolマガジン、やりましょう!」なんて言い出すかも知れませんが。
ここでいくつか素敵な作品を披露してくれてるんで、そのまま続けていって欲しいというのが私の想いです。
で、ある程度まとまったら、<作品倉庫>か<創作小説>のところへ『full fool(fool全作品集)』なんてなったらいいなあと・・・そうして、その時は誤字脱字を訂正していただきましょう。

削除キー   

25 kao

2004/03/18 23:47

響ちゃんも幸せになってホスィー!
大輔くんの心情の変化が追っていて楽しかったです。
思春期! 青春! ステキー!

ところで、大輔くん以外の学校の人は、
風がものを盗む(ゴメン、そう理解してしまった)以外には何もわからないで噂してるの?
そんでもって風が吹いた大輔くんからは何が去っていったのかしら…。
響ちゃんにハートを盗まれたのかしらッ!
ええっ!でもそんなこと!祥子ちゃんが可哀想じゃない!
(なんてベタな)

そうじゃないっすよね。
大輔くんの心のもやもやを持っていってくれたんっすよね。多分。

サワヤカなお話ありがとーう。
削除キー   

26 fool

2004/03/19 22:16

感想ありがとうございます

風雲さん
こそこそっと気楽にやっていきます。

みて太さん
というわけで「foolマガジン、やりましょう!」とは言いません(笑)

kaoさん
>ところで、大輔くん以外の学校の人は、
風がものを盗む(ゴメン、そう理解してしまった)以外には何もわからないで噂してるの?
そんでもって風が吹いた大輔くんからは何が去っていったのかしら…。

・・・えー、・・・・・・何も考えてませんでした!!!!(おい)
削除キー   

27 みて太

2004/04/01 01:06

≪エイプリル・フール≫

「空想力」あるいは「想像力」と呼ばれる不思議な力がある。
およそ人間と生まれた者には多かれ少なかれこの力は備わっている、らしい。
しかしこの力、人によって働き方が全く異なる不思議な力なのである。

何を見ても食い物に結びつけようとする者がいる。
何でも賭け事のネタにしたがる者がいる。
全く見ず知らずの異性とすれ違いざまに目が合っただけで「あの人は私に気があるに違いない」なんて思い込む幸せな人もいる。
なんでもかんでも語呂合わせや駄洒落にすることにしか想像力が向かない哀れなオジサンもいる。
・・・まあ、大抵の人はこんなものです、「想像力」と言ったって。
しかし、凡人なら何気なく見過ごしてしまうようなほんのちょっとした<日常生活の小さな体験>を全く『思いもかけない物語』にしてしまう羨ましい「想像力」を持った人もいるのである。彼らは小説家と呼ばれる。
そうしてここにもそんな力で創造した物語を発表し続けてくれる青年がいる。
平成15年7月に<夕焼けを見て>→『落日色の空』
8月に戯れに<お姉さんのスカートを穿いて>→『十字路の果て』
10月には<オフ会に参加して>→『山の南や 春の月』
平成16年3月には<宙に浮かぶ少女をみて>→『風の噂』
といった具合に素敵な作品の数々で私たちを楽しませてくれた。
その「想像力」に富んだ青年の名をfoolという。

そんなわけで私は≪4月のfool≫を楽しみに待っているのである。


削除キー   

ホームページ  検索  ヘルプ  |  リスト   前のスレッド  次のスレッド  
お名前
メール
内容

送信する前に確認しましょう       

Point One BBS